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福岡高等裁判所 昭和24年(う)659号 判決 1950年6月20日

被告人

上野景三

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金十五万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金四百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

職権を以て調査すると、原判決は物価統制令第三条第三十三条の犯罪事実を認定するについて、被告人は荒木一人を介していわし油(一等品)二千三百十瓩を統制額を超過する代金四十六万円で買受けた旨判示しているが取引の相手方については何等判示するところがない。物価統制令の右法条の違反行為は一定の相手方との間に価格に付き統制額を超えて契約し、支払い又は受領する行為でなければならないから、取引の相手方について何等判示せずして単に統制額を超える代金で買受けた旨を判示するだけでは、その統制額を超える買受行為が一定の相手方との間に成立したことの具体的犯罪事実の判示として不十分といわなければならない。

もつとも相手方の氏名は時に不明なこともあるからその氏名を明示することは必ずしも必要ではなく、氏名の不明な場合は例えば氏名不詳者と表示すればよいわけで、氏名不詳者とは不定の者の謂ではなく氏名の詳でない一定の人を意味するのである。それ故取引の相手方について何等判示するところのない従つてその買受行為が一定の相手方との間に成立したことの判示として不十分な原判決は結局理由不備の違法を免れない。

そこで刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十一条第三百七十八条第四号前段及び第四百条但し書に則つて原判決を破棄し当裁判所は自ら更に次のとおり判決する。

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